図1-1に示す直径100ミクロン以下の微小切削工具を使用する微細切削加工が、電子機器部品や小型の医療検査機器などの製作に活用されようとしている。微細切削加工での微細穴加工では切りくずの排出不良や切削工具の折損などの問題点が多いことが指摘されている。このため、微細切削加工の問題点を解決し、高能率で安価な新しい微細切削加工システムの開発が急務となっている。
特に本研究では、直径100ミクロン以下の微細加工における微細加工技術のノウハウ構築に目標を置いている、直径100ミクロン以下の微小ドリルに発生する微小な力は通常の工具よりも非常に小さく、摺動部を有する位置制御ステージでは、力とトルクを計測・制御することは不可能である。
しかし、本研究で用いる「磁気浮上ステージ」は完全非接触でステージを支持し、6自由度の位置・姿勢を制御可能なので、微小な切削工具に作用する力とトルクを計測し制御することが可能である。現在、世界中でも直径100ミクロン以下の微細加工ドリルの加工時に発生する微細トルクを計測しながら「微細切削加工技術ノウハウ構築支援システム」の実現を目指しているのは我々だけだと自負して、本研究を通じて開発を成功させたい。

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磁気浮上制御系の構成
磁気浮上コントローラは磁気浮上によって完全非接触でステージを支持し、6自由度の位置・姿勢を制御可能である。図6-1-1に示すように、磁気浮上はデジタルシグナルプロセッサー(DSP)を2個搭載した制御装置により実現されている。一般的に、磁気浮上系は電磁石の非線形性の影響で精密な位置決めや力の計測が困難であるが、本研究開発では、2個のDSPを並列に動作させることでこの問題を解決している。DSP1がフィードバック制御で磁気浮上を実現し、DSP2は、電磁石の持つ非線形特性を補償する。2個のDSPが協調動作をすることにより磁気浮上系での精密な位置決めを実現した。DSPに備わったDMA転送機能とシリアル通信機能により、フィードバック制御パラメータ、指示位置がDSP2からDSP1へ送信され、磁気浮上ステージの位置信号がDSP1からDSP2へ送信される。その結果、非線形な磁気浮上系を線形化することができ、ドリル加工によって発生する力を計測可能とした。磁気浮上ステージには後述する分光干渉型変位計または静電型変位計が組み込まれており、電圧信号としてステージの位置を出力する。電圧信号は16ビット
6チャンネルのAD変換LSIによってデジタル信号に変換される。また、制御信号は14ビット6チャンネルのDA変換LSIによってデジタル信号からアナログ信号に変換され電磁石駆動用電力増幅器に供給される。
ホストコンピュータはDSP2から受信した変位などの情報を作業者に提示し、作業者が設定するステージの指示位置をDSP2に転送する。また、変位から力への計算もホストコンピュータが実行する。
本磁気浮上ステージで使用している電磁石は、コイルのインダクタンスが大きく、通常の電圧フィードバック方式の電力増幅器では信号電圧と電磁石駆動電流の間に遅延、すなわち位相遅れが生じるため磁気浮上を実現できない。そこで、電流フィードバック増幅器を製作することにより位相遅れの問題を解決した

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微細トルク計測実績
図6-3-11 にドリル直径50μmのドリルによる穴加工実験で得られたドリルの回転軸方向の力と回転軸まわりのトルクを掲載する。ドリルの回転数を8000[rpm]、送り速度を0.5[mm/秒]に設定した。被削材はSUS304である。図6-3-11の横軸はサンプルデータ番号であり、約10[ミリ秒]毎にサンプルされるデータの番号である。したがって、横軸のサンプルデータ番号を100で割ると時間[秒]に換算される。
ドリルによる穴加工が実行されるとき、磁気浮上ステージには鉛直軸方向、すなわちz軸方向の負向き(マイナス)に力が作用するので、図6-3-11(上側)の力の計測結果では、力がマイナスとなって計測されている。しかし、図6-3-11(下側)のトルク計測結果では、トルク以外の要因が計測されている、これは機上の振動であったり、スピンドル保護用エアーが影響しているモノと思われる。現場でのトルク計測においては図6-3-11(上側)のz軸方向の負向き(マイナス)に力のみに注目した方が良いのかもしれない。 |
 図6-3-11
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